Hyperemesis gravidarum
国際的な診療ガイドラインに基づく
概要
妊娠悪阻(にんしんおそ)とは、妊娠中に起こる非常に強い吐き気と嘔吐(おうと)が続く状態です。通常の「つわり」よりも症状が重く、食事や水分をほとんどとれなくなり、体重が減ったり、体の水分・栄養バランスが崩れたりすることがあります。
重要な事実
- 妊娠悪阻は、通常のつわりとは違い、吐き気や嘔吐が非常に強く、長く続きます。
- 適切な治療を受けないと、脱水(体の水分不足)や栄養不足になり、母体と赤ちゃんの健康に影響を及ぼす可能性があります。
- 治療には、安静や食事の工夫に加えて、医療機関での点滴や入院が必要になることもあります。
妊娠悪阻は、妊娠中の女性の約0.5~2%に起こると言われており、めずらしい状態ではありません。しかし、症状の重さや経過は個人差が大きく、多くの場合、医療ケアが必要になります。
妊娠中の女性、特に妊娠初期(妊娠5~12週ごろ)に多く見られます。初めて妊娠する人、多胎妊娠(双子など)、以前に妊娠悪阻を経験した人などでリスクがやや高まります。
症状
- 意識がもうろうとする
- 激しい腹痛がある
- 血を吐く、または吐いた物に血が混じる
- 呼吸が苦しい
- けいれんが起きる
- ⚠食事や水分が全く取れず、尿が半日以上出ない
- ⚠体重が急激に減っている(妊娠前より5%以上)
- ⚠強いだるさやふらつきがあり、立っていられない
- ⚠嘔吐がひどく、口の中やのどが痛む、または血の混じった吐物がある
- ⚠心拍が速くなる、または不整脈を感じる
一般的な症状
- 毎日のように続く強い吐き気
- 1日に何度も嘔吐する
- 水分や食事をほとんどとれない
- 体重が5%以上減る
- 尿の量が減る、濃い色の尿が出る
- 立ちくらみやめまいがする
原因
主な原因
- 妊娠中に増加するホルモン(特にヒト絨毛性ゴナドトロピン:hCG)の影響で、吐き気や嘔吐が強くなると考えられています。
- 胃や消化管の動きが遅くなることや、嗅覚が敏感になることも関係している可能性があります。
- 精神的なストレスや疲れが症状を悪化させることがありますが、直接の原因ではありません。
リスク要因
- 初めての妊娠
- 多胎妊娠(双子や三つ子など)
- 以前の妊娠で妊娠悪阻を経験した
- 家族に妊娠悪阻を経験した人がいる
- 若い年齢での妊娠
- 肥満(BMIが高い)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 水分も食事も全くとれず、尿がほとんど出ない
- 体重が急に減っている(妊娠前より5%以上)
- 強いめまいや立ちくらみ、意識が遠くなる感じがある
- 吐いた物に血が混じる
- 激しい腹痛や頭痛がある
定期受診を予約すべき場合:
- 吐き気や嘔吐が続き、食事や水分がうまく取れないと感じる
- 仕事や家事ができなくなるほどつらい
- 市販の対策(例:食べやすいものを少しずつ食べる)では改善しない
- 体重が減っていることに気づいた
診断
医師があなたの症状(吐き気、嘔吐の程度、体重減少など)を詳しく聞き、診察を行います。妊娠悪阻の診断は主に症状と経過から行われますが、他の病気(胃腸炎や甲状腺の異常など)がないか確認するために検査をすることもあります。
行われる可能性のある検査
- 尿検査:脱水の程度や、ケトン体(エネルギー不足のサイン)が出ていないかを調べます。
- 血液検査:電解質(体のミネラルバランス)や肝臓・腎臓の働き、栄養状態を調べます。
- 超音波検査(エコー):赤ちゃんの状態や、多胎妊娠の有無を確認します。
診察で予想されること
診察では、まず症状の詳しい話を聞かれます。必要に応じて尿検査や血液検査が行われ、その結果をもとに治療方針が決まります。症状が軽ければ自宅でのケアが中心ですが、脱水や栄養不足が強い場合は、病院で点滴や入院治療が必要になることもあります。
治療
妊娠悪阻の治療は、症状の重さによって異なります。まずは生活習慣の改善や食事の工夫を試み、それでも改善しない場合は、医療機関での点滴や、場合によっては入院して治療を行います。薬を使うこともありますが、医師が指導する範囲で行います。
自宅でのセルフケア
- 食事は少量を頻回に(1日6~8回に分けて)とる。
- 脂っこいものや香りの強いものは避け、冷たいものや炭水化物中心の食べやすいものを選ぶ。例えば、クラッカー、白ご飯、うどん、バナナなど。
- 水分はこまめに少しずつとる。冷たい水、経口補水液(スポーツ飲料など)、薄いお茶などが良い。
- 吐き気を感じやすい刺激(強い匂い、熱いもの、混雑した場所)を避ける。
- 十分に休養し、疲れをためない。
- 吐き気が強いときは、生姜(しょうが)を含む飲み物や食べ物が役立つことがある(例:しょうが湯、しょうがの飴)。
医療治療
自己ケアだけでは改善しない場合、医師は吐き気を和らげるための薬を処方することがあります。妊娠中でも安全に使えるとされる薬がいくつかありますが、必ず医師の指示に従って使用してください。また、脱水が強い場合には、病院で静脈から点滴(血管に直接水分や栄養を補給すること)を行います。症状がさらに重い場合や、体重減少が続く場合には、入院して点滴や栄養管理を続けることもあります。
手術が検討される場合
該当しません。
この病気と共に生きる
妊娠悪阻があると、日常生活がとてもつらくなることがあります。まずは無理をせず、休むことを優先しましょう。仕事や家事は、できるときだけ行い、周りの人に助けを求めることが大切です。症状は妊娠12~16週ごろにピークを迎え、その後多くの場合、自然に改善していきます。
生活習慣のアドバイス
- 吐き気が強い朝は、ベッドの中でクラッカーなど食べられるものを口にしてから起きる。
- こまめに休憩を取り、横になる時間を作る。
- ストレスをためないように、気分転換できることを見つける(例:ゆっくり音楽を聴く、温かい飲み物を楽しむなど)。
- 強い匂い(調理の匂い、香水、たばこなど)から遠ざかる。
- パートナーや家族に状況を伝え、家事や買い物の手伝いを頼む。
食事と運動
食事は、「食べられるものを、食べられる時に、食べられるだけ」が基本です。栄養バランスは二の次にして、まずはエネルギーと水分を確保することが優先です。運動は、体調が良いときに軽い散歩程度にとどめ、無理はしないでください。激しい運動は避けましょう。
精神的健康と心の健康
強い吐き気や嘔吐が続くと、気分が落ち込んだり、不安を感じたりすることがあります。「つわりくらい我慢しなければ」と自分を責めず、症状は病気の一つだと理解しましょう。もし気分がつらかったり、眠れない日が続く場合は、遠慮なく医師や助産師に相談してください。
予防
妊娠悪阻を完全に予防する方法はわかっていません。しかし、妊娠前から健康的な生活(栄養バランスの良い食事、適度な運動、ストレス管理)を心がけることで、症状が軽くなる可能性があります。また、以前の妊娠で妊娠悪阻があった人は、今回の妊娠がわかったら早めに医師に相談し、予防的な対策を話し合うと良いでしょう。
合併症
治療しない場合
- 脱水(体の水分不足)や電解質異常(体内のミネラルバランスが崩れる)
- 低栄養(ビタミンやミネラルの不足。特にビタミンB1不足は脳に影響を与えることがある)
- 体重減少が続くことで、低出生体重児のリスクが高まる
- 母体の体力低下や免疫力の低下
- まれに、肝臓や腎臓の機能障害、または血栓症(血の塊ができる病気)が起こることがある
長期的な見通し
妊娠悪阻は多くの場合、妊娠中期(12~16週ごろ)には症状が落ち着いてきます。適切な治療とケアを受ければ、ほとんどの女性と赤ちゃんに長期的な問題は残りません。つらい時期ですが、決して一人で悩まず、必ず医師や周りの助けを借りてください。
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健康ガイドラインは国や地域によって異なります。この記事の情報は国際的な臨床ガイドラインに基づいていますが、お住まいの国の具体的なガイドライン、薬、または診療慣行を反映していない場合があります。健康上の懸念は常にご自身の医師または医療提供者と相談し、利用可能な場合は地域の国家ガイドラインを参照してください。
重要なお知らせ この情報は教育目的にのみ提供されています。専門的な医療アドバイス、診断、治療に代わるものではありません。ご自身の状況については、常に資格を持つ医療専門家にご相談ください。医療上の緊急事態が発生した場合は、直ちに最寄りの救急医療サービスに連絡してください。
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情報源とガイダンス
この記事は教育目的で、利用可能な場合は認知された健康情報および臨床ガイダンスの情報源を参照して作成されています。具体的な情報源リンクはトピックによって異なる場合があります。
最終更新: 2026年7月17日
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