高齢者の多発性硬化症(MS)とともに生きる
国際的な診療ガイドラインに基づく
概要
多発性硬化症(MS)は、脳や脊髄(せきずい)という体の中枢神経(ちゅうすうしんけい)に炎症(えんしょう)が起こる病気です。免疫(めんえき)システムが誤って自分の神経を攻撃してしまうことで、神経がうまく信号を伝えられなくなります。その結果、体の動きや感覚、バランスなどに症状があらわれます。
重要な事実
- MSは慢性(まんせい)の病気で、長くつきあっていくことが多いです
- 症状は人によって大きく違い、良くなったり悪くなったりを繰り返すことがあります
- 現在のところ完全に治す治療法はありませんが、症状を抑え進行を遅らせる治療があります
- 高齢になると症状の現れ方や経過が若い頃と変わることがあります
MSは比較的まれな病気で、日本では約2万人の方が診断されているといわれています。高齢になって初めて診断されることもありますが、多くは20~40代に発症します。
MSは女性に男性の約2~3倍多く見られます。どの年代でも起こりえますが、高齢者では若い頃に発症した方が年を重ねてきたケースと、高齢になって初めて診断されるケースがあります。
症状
- 突然、強い頭痛や意識がもうろうとする
- 急に片側の手足が動かせなくなる
- 呼吸が苦しい、胸が痛い
- 激しいめまいで立っていられない
- ⚠急に視力が大きく落ちた
- ⚠新たに強いしびれや痛みが現れた
- ⚠尿が出にくい、または全く出なくなった
- ⚠転倒してけがをした(特に頭をぶつけた)
一般的な症状
- 疲れやすさ(だるさ)
- 手足のしびれや感覚がにぶくなる
- 視力の低下やものが二重に見える
- 歩きにくい、バランスがとりにくい
- 排尿や排便のコントロールが難しくなる
子供の症状
- 子どもではMSは非常にまれです。症状は大人と似ていますが、発熱や感染をきっかけに症状が出やすい特徴があります。
高齢者の症状
- 高齢者では、若い頃より疲労感が強く出やすい
- 歩行障害や転倒のリスクが高まる
- 認知機能(記憶力や注意力)の低下が目立つことがある
- 症状の変化がゆっくりで、気づきにくいこともある
原因
主な原因
- MSの原因はまだ完全にはわかっていません。免疫システムが自分の神経を攻撃してしまう自己免疫(じこめんえき)の病気と考えられています。
- 遺伝的な要素と環境的な要素(特定のウイルス感染やビタミンD不足など)が関係している可能性があります。
リスク要因
- 家族にMSの方がいる(遺伝の影響は小さいですがリスクがやや高まります)
- 女性であること
- 特定のウイルス(EBウイルスなど)に感染した経験
- 日光を浴びる機会が少なくビタミンDが不足している
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 上記の緊急症状がある場合
- 新たな症状が急に出た場合
定期受診を予約すべき場合:
- 定期的にMSの専門医(神経内科)を受診しましょう。症状が落ち着いていても、年に1~2回の受診がすすめられます。
- 薬の効果や副作用の確認、リハビリの調整のために定期的なフォローアップが必要です。
診断
MSの診断は、症状や経過、神経の診察、画像検査などを総合的に行います。似た症状が出る他の病気を除外することも大切です。
行われる可能性のある検査
- 脳や脊髄のMRI(磁気共鳴画像)検査:炎症の場所や広がりを確認
- 髄液(ずいえき)検査:背中から針を刺して髄液をとり、MSに特徴的なたんぱく質を調べる
- 血液検査:ほかの病気を除外するために行う
- 視覚誘発電位(VEP)検査:視神経の働きを調べる
診察で予想されること
診断には時間がかかることがあります。はっきりした結果が出るまでに数週間から数か月かかることもありますが、焦らずに医師と一緒に進めていきましょう。
治療
MSの治療は大きく分けて「病気の進行を遅らせる治療」と「症状を和らげる治療」があります。薬物療法、リハビリテーション、生活習慣の見直しを組み合わせます。
自宅でのセルフケア
- 十分な休息と睡眠をとる(疲れをためない)
- 規則正しい生活リズムを心がける
- ストレスを上手に発散する方法を見つける
- 室温の調整や服装で体温の急な変化を避ける(暑さで症状が悪化することがある)
医療治療
医師が症状や病状に合わせて治療を選択します。再発を防ぐための薬(免疫調整薬など)や、症状を和らげる薬(痛みやこわばりに対するもの)があります。高齢の方は副作用が出やすいこともあるため、医師とよく相談しながら治療を進めます。
手術が検討される場合
MSそのものに対する手術は通常ありません。ただし、症状に伴う合併症(例えば、歩行障害による骨折など)に対して手術が必要になることはあります。
この病気と共に生きる
MSとともに生きるということは、症状の波に合わせて生活のペースを調整することが大切です。調子の良い日に無理をしすぎず、悪い日は休むことを優先しましょう。周囲の理解を得ることも助けになります。
生活習慣のアドバイス
- 無理のない範囲で社会活動や趣味を続ける
- 住まいのバリアフリー化(手すりの設置など)を検討する
- 転倒予防のために室内の整理整頓や滑りにくい靴を履く
- 疲れを感じたらすぐに休む習慣をつける
食事と運動
バランスの良い食事(野菜、魚、良質な油を多くとる)がすすめられます。特にビタミンDを意識してとるとよいでしょう(日光浴や食品から)。運動は、無理のない範囲でストレッチやウォーキング、水中運動などが筋力維持や疲労軽減に役立ちます。理学療法士の指導を受けるのも良い方法です。
精神的健康と心の健康
慢性の病気と向き合うことは、不安や気分の落ち込みを引き起こすことがあります。それは自然な感情です。気持ちを話せる人や専門家(カウンセラー、精神科医)に相談することも大切です。もし自傷や希死念慮がある場合は、すぐに医療機関や相談機関に連絡してください。
予防
現在のところ、MSを完全に予防する方法はありません。しかし、健康的な生活習慣(禁煙、適度な日光浴、バランスの良い食事)が発症リスクを下げる可能性があると研究されています。
ワクチン
MSを予防するワクチンはありません。ただし、感染症(インフルエンザなど)は症状を悪化させることがあるため、医師と相談の上で必要なワクチン接種を受けることは有益です。
検診プログラム
MSに対する一般的なスクリーニング検査はありません。気になる症状がある場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。
合併症
治療しない場合
- 症状の再発が繰り返されることで、障害が蓄積しやすくなる
- 歩行や日常生活動作(食事、着替えなど)が困難になる
- うつ病や不安障害などの精神的な問題が生じやすくなる
- 感染症(尿路感染症や肺炎)のリスクが高まる
長期的な見通し
MSは人によって経過が大きく異なります。高齢になると症状の進行がゆっくりになることもあります。適切な治療と生活管理により、多くの方は長年にわたって活動的な生活を続けることができます。希望を持ちながら、医師と一緒に自分に合ったケアを見つけていきましょう。
サポートを探す
外部リンクは第三者のウェブサイトを開きます。Ruqelo は外部コンテンツについて責任を負いません。団体名の掲載は推奨を意味するものではありません。
必ず医師に確認してください
健康ガイドラインは国や地域によって異なります。この記事の情報は国際的な臨床ガイドラインに基づいていますが、お住まいの国の具体的なガイドライン、薬、または診療慣行を反映していない場合があります。健康上の懸念は常にご自身の医師または医療提供者と相談し、利用可能な場合は地域の国家ガイドラインを参照してください。
重要なお知らせ この情報は教育目的にのみ提供されています。専門的な医療アドバイス、診断、治療に代わるものではありません。ご自身の状況については、常に資格を持つ医療専門家にご相談ください。医療上の緊急事態が発生した場合は、直ちに最寄りの救急医療サービスに連絡してください。
関連する疾患
情報源とガイダンス
この記事は教育目的で、利用可能な場合は認知された健康情報および臨床ガイダンスの情報源を参照して作成されています。具体的な情報源リンクはトピックによって異なる場合があります。
最終更新: 2026年7月30日
教育上の注記: この情報は教育目的のみであり、診断ではありません。
免許を持つ医療者のアドバイスを補うために使い、代わりにはしないでください。
症状が重篤、悪化、または緊急の場合は、地域の救急番号に電話するか、緊急医療を受けてください。