Thyroid Disorders
参照した情報源
この記事は患者教育のための独自コンテンツです。
- NICE—Thyroid disease: assessment and management. NG145(2019)
- NHS—Underactive thyroid (hypothyroidism)(2023)
- WHO—Thyroid disorders(2023)
- ATA—American Thyroid Association guidelines(2023)
国際的な臨床ガイドラインに基づいています
概要
甲状腺(こうじょうせん)は、のどの前側にある小さな蝶のような形をした臓器です。この甲状腺が作るホルモンは、体の代謝(エネルギーの使い方)・体温・心拍数・成長など、さまざまな働きをコントロールしています。「甲状腺疾患(こうじょうせんしっかん)」とは、この甲状腺の働きが乱れる病気の総称です。大きく分けると、ホルモンが多すぎる「甲状腺機能亢進症(こうしんしょう)」、少なすぎる「甲状腺機能低下症(ていかしょう)」、そして甲状腺が腫れる「甲状腺腫(こうじょうせんしゅ)」や結節(しこり)などがあります。多くの場合、適切な治療を続けることで、普段どおりの生活を送ることができます。
重要な事実
- 甲状腺は体中のエネルギーバランスを調整する重要なホルモンを作っています。
- 甲状腺疾患は大きく「ホルモンが過剰になるタイプ」と「ホルモンが不足するタイプ」に分かれます。
- 血液検査(甲状腺ホルモン値・TSH値)で比較的簡単に調べることができます。
甲状腺疾患は非常によく見られる病気です。日本では成人の数十人に一人が何らかの甲状腺の問題を抱えているとも言われています。厚生労働省も生活習慣病や内分泌疾患のひとつとして注目しており、特に中高年の女性に多いとされています。
甲状腺疾患は年齢・性別を問わず誰にでも起こりえますが、特に女性に多く見られます。男性と比べると女性は約5〜10倍なりやすいとされています。また、家族に甲状腺疾患の人がいる場合や、自己免疫疾患(免疫が自分自身を攻撃してしまう病気)を持っている人はリスクが高まることがあります。子どもからお年寄りまで幅広い年代で発症する可能性があります。
症状
- 【甲状腺クリーゼ(きわめて危険な状態)】急に高熱が出る・激しい動悸・意識がもうろうとする・ひどい嘔吐や下痢・ひきつけ(けいれん)→ すぐに119番に電話してください
- 【粘液水腫性昏睡(ねんえきすいしゅせいこんすい)】意識がなくなる・体温がとても低い・呼吸がおかしい → すぐに119番に電話してください
- のどの急激な腫れで息ができない・飲み込めない → すぐに119番に電話してください
- ⚠急に心拍数が非常に速くなり、胸の痛みや息苦しさがある
- ⚠全身が急にひどく浮腫む(むくむ)
- ⚠急に声が出なくなる・飲み込みが極端に難しくなる
- ⚠のどのしこりが急に大きくなった
一般的な症状
- 【機能亢進症(ホルモン過剰)の症状】体重が減る・動悸(どうき:心臓がドキドキする)・手の震え・汗をかきやすい・暑さに敏感になる・下痢・イライラ・不安感・眠れない
- 【機能低下症(ホルモン不足)の症状】体重が増える・疲れやすい・寒さに敏感になる・便秘・肌や髪が乾燥する・むくみ・気分が落ち込む・記憶力・集中力の低下
- のどの前側が腫れていると感じる、またはしこりに気づく
- 声がかすれる・飲み込みにくい
- 目が出てきたように感じる(バセドウ病で起こりやすい)
- 月経(生理)の周期や量が変わる
子供の症状
- 成長が遅れる・身長が伸びない
- 学校の成績や集中力が下がる
- 体重が急に増えたり減ったりする
- 疲れやすく、活動量が減る
- 思春期の始まりが早まったり、逆に遅れたりする
- のどの腫れが見られる
高齢者の症状
- 症状が出にくく、疲れや物忘れとして見過ごされることがある
- 心房細動(しんぼうさいどう:不規則な心拍)が起こることがある
- 転倒しやすくなる・筋力が低下する
- 認知機能(もの覚えや判断力)の低下が甲状腺の問題で起こることがある
- うつ症状として現れることがある
原因
主な原因
- 自己免疫疾患:免疫システムが誤って甲状腺を攻撃することで起こる。バセドウ病(機能亢進症の主な原因)や橋本病・慢性甲状腺炎(機能低下症の主な原因)が代表的
- ヨウ素の摂りすぎ・不足:ヨウ素は甲状腺ホルモンの材料。極端に多すぎても少なすぎても甲状腺に影響する
- 甲状腺結節(しこり)や腫瘍:良性のことが多いが、まれに悪性(がん)のこともある
- 出産後の甲状腺炎(産後に一時的にホルモンバランスが乱れる)
- 放射線治療や特定の薬剤の影響
- 先天性(生まれつき)の甲状腺の異常
- 下垂体(かすいたい:脳にある甲状腺を調節する臓器)の病気
リスク要因
- 女性である(特に30〜60代)
- 家族に甲状腺疾患や自己免疫疾患がある
- 1型糖尿病・関節リウマチなどの自己免疫疾患を持っている
- 過去に放射線治療を頸部(首)に受けたことがある
- 喫煙(特にバセドウ病の眼の症状と関連)
- 妊娠中・産後
- ストレスが長期間続いている
- ヨウ素を極端に多く、または少なく摂取している
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 急に激しい動悸・手の震え・大量の発汗・高熱がある
- のどの腫れが急速に大きくなっている
- 急に体重が大きく増減した
- 意識がぼんやりする・極端な疲れや混乱がある
定期受診を予約すべき場合:
- 最近、疲れやすさ・体重変化・むくみなど気になる症状が続いている
- のどや首にしこりや腫れを感じる
- 月経が乱れている・なかなか妊娠しない
- うつっぽい・集中力が落ちた・気分が安定しないと感じる
- 家族に甲状腺疾患があり、自分も心配
- 定期健診で甲状腺ホルモン値の異常を指摘された
診断
甲状腺疾患の診断は、症状の確認・身体診察(首の触診)・血液検査・画像検査などを組み合わせて行われます。まずかかりつけ医や内科を受診し、必要に応じて内分泌科(ないぶんぴつか)や甲状腺専門の医師に紹介してもらうことができます。診断には時間がかかることもありますが、検査を一つひとつ進めていくことで、体の状態をより詳しく把握できます。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(甲状腺刺激ホルモン=TSH・甲状腺ホルモン=T3・T4の測定):最も基本的な検査
- 甲状腺自己抗体検査(TPO抗体・Tg抗体・TSH受容体抗体など):自己免疫が原因かどうかを調べる
- 甲状腺超音波検査(エコー検査):甲状腺の大きさや形、しこりの有無を画像で確認する
- 放射性ヨウ素摂取率検査・シンチグラフィ:甲状腺の機能や形を調べる専門的な検査
- 細胞診(さいぼうしん):しこりがある場合、細い針で少量の細胞を採取して顕微鏡で調べる
- CT・MRIなどの画像検査:必要に応じて実施
診察で予想されること
診察では、首を触って甲状腺の大きさや硬さを確認します。血液検査は通常の採血と同じで、結果は数日で分かることが多いです。エコー検査は痛みなく、首にゼリーを塗ってプローブ(小さな機器)を当てるだけです。しこりがある場合は細胞診を勧められることがありますが、多くは良性です。検査の目的や手順について、担当医に遠慮なく質問してみましょう。
治療
甲状腺疾患の治療は、疾患の種類・重症度・年齢・妊娠の有無などによって異なります。「ホルモンが多すぎる場合」と「少なすぎる場合」では治療の方向性が正反対になるため、正確な診断がとても重要です。多くの患者さんは、薬による治療で症状をコントロールできます。定期的な受診と血液検査で状態を確認しながら、医師と一緒に治療を続けていきましょう。
自宅でのセルフケア
- 処方された治療を医師の指示通りに続ける(自己判断で中断しない)
- 定期的な受診・血液検査を欠かさない
- 十分な睡眠を取り、過労を避ける
- 強いストレスをできるだけ避け、リラックスする時間を作る
- 禁煙する(特にバセドウ病の目の症状に影響することがある)
- 体調の変化(症状の悪化・新たな症状)を記録しておき、受診時に伝える
- ヨウ素を極端に多く含む食品(昆布の大量摂取など)を過度に食べない(医師に確認する)
医療治療
治療法は大きく「薬物療法」「放射性ヨウ素治療」「手術」の3つがあります。甲状腺ホルモンが多すぎる場合は、ホルモンの産生を抑える飲み薬が処方されることが多いです。甲状腺ホルモンが少なすぎる場合は、不足しているホルモンを補う薬を飲むことで体のバランスを整えます。いずれも定期的な血液検査で薬の量を調整していきます。放射性ヨウ素治療は、甲状腺の細胞に直接働きかけて機能を低下させる方法です。具体的な薬の種類や量、治療方針については、必ず担当の医師と相談して決めてください。
手術が検討される場合
手術(甲状腺の一部または全部を取り除く手術)が検討されるのは、①薬や放射性ヨウ素治療が効かない場合、②甲状腺が大きく腫れて気管や食道を圧迫している場合、③悪性腫瘍(甲状腺がん)が疑われる・確認された場合、④放射性ヨウ素治療が適さない場合(妊娠中など)です。手術の必要性やリスクについては、外科・内分泌科の専門医とよく話し合うことが大切です。
この病気と共に生きる
甲状腺疾患と診断されると、最初は戸惑うかもしれません。でも、多くの方が治療を続けながら仕事・育児・趣味など日常生活を元気に過ごしています。大切なのは、定期的に医師と連絡を取り、体の変化に気づいたらすぐに相談することです。薬の飲み忘れや受診の中断は症状の悪化につながることがあるため、毎日の習慣として治療を続けましょう。
生活習慣のアドバイス
- 規則正しい生活リズムを整え、十分な睡眠を確保する
- 処方された治療を毎日決まった時間に続ける
- 定期検査の予約を忘れずに入れておく
- 喫煙をしている場合は禁煙を心がける
- 過度なアルコール摂取を控える
- 激しいストレス状況を避け、自分なりのリラクゼーション法を見つける
- 妊娠を希望する方は事前に担当医に相談する
食事と運動
特別な「甲状腺食」はありませんが、バランスの良い食事が基本です。ヨウ素(昆布などに多く含まれる)の極端な大量摂取は、一部の甲状腺疾患に影響することがあるため、食事内容が心配な方は担当医や管理栄養士に相談してみましょう。運動は体全体の健康に役立ちますが、甲状腺機能が安定するまでは激しい運動を控えたほうが良い場合もあります。自分の体調に合わせて、無理のない範囲でウォーキングや軽い体操から始めてみてください。
精神的健康と心の健康
甲状腺ホルモンの乱れは、気分・感情・精神的な健康に大きな影響を与えることがあります。ホルモンが多い場合は不安・イライラ・パニック感、ホルモンが少ない場合はうつ・無気力・悲しみが強まることがあります。「気持ちの問題」と一人で抱え込まないでください。これらの症状はホルモンの影響によるものであり、治療が進むと改善することが多いです。気持ちがつらいと感じたら、医師に正直に伝え、必要であればこころの専門家(精神科・心療内科・カウンセラー)のサポートも受けてみましょう。もし気持ちが非常につらく、自分を傷つけたいという気持ちが出てきた場合は、一人で抱え込まず、すぐにこころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)や、かかりつけ医・精神科に連絡してください。
予防
バセドウ病・橋本病などの自己免疫が原因の甲状腺疾患は、現時点では完全に予防することは難しいとされています。ただし、以下のことが甲状腺の健康を守るうえで助けになる可能性があります。①禁煙する(喫煙は甲状腺疾患のリスクを高めることがある)、②バランスの良い食事を心がけ、ヨウ素を極端に多く・少なく摂りすぎない、③強いストレスを長期間ため込まない、④定期健診を受ける。完全な予防は難しくても、早期発見・早期治療で多くの場合は良好な経過をたどれます。
検診プログラム
日本では、新生児(生まれたばかりの赤ちゃん)に対して先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)のスクリーニング(早期発見のための検査)が公的に実施されています。成人については、症状がある方・家族に甲状腺疾患がある方・自己免疫疾患を持つ方などはかかりつけ医に相談し、定期的な血液検査を受けることをおすすめします。厚生労働省の指針も参考にしながら、自分に合った検診を受けましょう。
合併症
治療しない場合
- 【機能亢進症を放置した場合】心房細動(不規則な心拍)・心不全・骨粗しょう症(骨がもろくなる)・甲状腺クリーゼ(命に関わる危険な状態)
- 【機能低下症を放置した場合】重篤な心臓病・不妊・妊娠中の合併症・粘液水腫性昏睡(意識を失う危険な状態)
- 妊娠中に治療されていない場合、赤ちゃんの発達に影響が出ることがある
- 子どもの場合、成長・発達・学習能力への影響
- 精神的・感情的な健康への長期的な影響
長期的な見通し
甲状腺疾患と診断されることは、不安に感じるかもしれません。でも、希望を持ってください。甲状腺疾患は治療の選択肢が豊富で、多くの患者さんが適切な治療を受けながら充実した毎日を送っています。定期的な受診と治療の継続が、長期的に健康を保つ一番の近道です。担当医と二人三脚で、自分のペースで治療に取り組んでいきましょう。
サポートを探す
国際機関
- American Thyroid Association(アメリカ甲状腺学会)- 患者向け情報(英語) ↗
- British Thyroid Foundation(英国甲状腺財団)- 患者サポート(英語) ↗
地域の団体
- 厚生労働省 – 甲状腺疾患に関する情報 ↗ · 日本全国
- 日本甲状腺学会 – 患者さんへの情報提供 ↗ · 日本全国
- 日本内分泌学会 – 内分泌疾患の情報 ↗ · 日本全国
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健康ガイドラインは国や地域によって異なります。この記事の情報は国際的な臨床ガイドラインに基づいていますが、お住まいの国の具体的なガイドライン、薬、または診療慣行を反映していない場合があります。健康上の懸念は常にご自身の医師または医療提供者と相談し、利用可能な場合は地域の国家ガイドラインを参照してください。
重要なお知らせ この情報は教育目的にのみ提供されています。専門的な医療アドバイス、診断、治療に代わるものではありません。ご自身の状況については、常に資格を持つ医療専門家にご相談ください。医療上の緊急事態が発生した場合は、直ちに最寄りの救急医療サービスに連絡してください。